社会福祉法人の事業内容
社会福祉法人は、主に、高齢者事業、障がい者事業、保育事業、その他措置事業(生活保護者支援、DVシェルターなど)といった事業を行っています。
高齢者事業でいえば、介護保険サービスや医療保険サービスになりますし、障がい者事業においては、障害福祉サービスとなります。
そのため多くが公的な資金(国、地方公共団体)となります。
社会福祉に関する資金について
いわゆる社会福祉に関する資金は、年々増大しており、3年に1回の報酬改定においては、全体としてはプラス改定というものが実施されておりますが、
実態としては、新しい事業や新しいサービスに対して増額となっており、従来サービスについては同じサービスを提供しても報酬が下がる形になっているケースが多いです。
これは、国が政策的に新しい必要なサービスを後押しするために報酬を多く配置しており、新しいサービスの供給を増やすための施策と考えてよいかと思います。
逆に言うと、従来通りのサービスを提供し続けるだけではなかなか経営が難しくなっていくのが実態です。
社会福祉法人の現状
毎年、福祉医療機構という団体から社会福祉法人の個別の決算書が閲覧できるようになっており、また、全体としての経営分析が実施されております。
2020年度の決算数値を前提とすると、サービス活動収益対サービス活動増減差額比率(いわゆる営業利益率)は3.1%となっております。
当初より民間企業の営業利益率が3%程度という話が出ていたので、おおむね想定通りの報酬改定がなされてきた結果だと思います。
一方で、赤字経営(経常増減差額が0未満)の割合 は、25.9%となっており、全体の約1/4が赤字ということとなります。
参考:福祉医療機構 経営分析参考指標
https://www.wam.go.jp/hp/guide-keiei-keieiqa-tabid-1976/
弊社でも関与させていただいている法人の近隣法人については、近隣分析として10-20社ほど抽出して比較することがありますが、
感覚的にはもっと多いのではないか?と感じるのが実情です。
これは、上記の介護事業、障害事業、保育事業においても格差が存在するため、あくまでも全体の数値という認識で見るべきかもしれません。
人件費率について
また、経費の内訳で見ると
大枠としては、
人件費率:67.3%
経費比率:23.8%
減価償却費率:4.7%
となっており、ビジネスモデル上、人件費の占める割合が非常に大きい形となっております。
(制度設計上、人数配置(〇人の利用者に対しては、〇人で見る)が決まっているため、おおむね上記の数字付近となります。)
つまり、「利益を上げたいから人を削減します。」というわけにはいきません。
逆に言うと、赤字法人の多くは余剰人員もしくは、1人が見るべき人数配置が想定数値と乖離しており、人件費率が70%を超える法人もあります。
上記の記載した通り、営業利益は3%なので、70%を超えるような法人でいえばおおむね赤字法人となっているケースが大半と感じます。
また、国は政策上介護職や保育職といった人材を確保するために処遇改善加算として、人件費の上乗せを進めておりますので、
人件費自体はこれからも上昇することが考えられます。
赤字でも経営が成り立ってしまう(少なくとも倒産しない)理由としては、過去の財産を食いつぶしている状態だけど、まだお金を持っているから倒産していない。
という法人も多くあります。
会計的な要素で話をすれば、上記の記載の通り、営業利益には減価償却費が計上されているため、利益上は赤字でも支出としては赤字になっていないという法人も中にはあるのではないでしょうか?
提供したいサービスと人件費の配分について
社会福祉法人においては、利用者さんにとって手厚い介護があるべき。との考えが根強くありますが、それはその通りだと思います。
しかし、手厚い介護をするということは、
①1人が見れる利用者の数が減ってしまう→利益が確保できない
②手助けなしには生活できなくなる→自宅への復帰ができなくなる
といった問題も抱えており、どちらがいいとは言い難い問題があるのも事実です。
また、手厚い介護を行うことで、法人の経営が行き詰ってしまい、法人が倒産するようなことがあれば、利用者さんのためと思ってやっていたことが
そもそも生活を脅かしかねない状況へとさせてしまう可能性もあります。
なので、やはり程度が大切なことだと思います。
見直しは行っていますか?
そして、経費についてです。
従来より予算執行型の社会福祉法人ですので、一度予算が通ってしまえば、より安くていいものがあっても、予算執行するだけ。との考え方も多く、
例えば、毎年自動更新のものについては、契約時には検証したけど、その後は見直しが実施されておらず、気が付いたらとても高い支払いを続けてしまっているというものも散見されます。
こういったものについては、適宜見直しが必要になってくるかと思います。
また、昨今のコロナや戦争を原因とした原価の高騰は、これからの法人を経営するうえではおそらく避けられないものとなってきますので、
一層経費の見直しは必要になってくるのではないかと思います。
今後の社会福祉法人の経営について
社会福祉法人の経営については、大きな売り上げの利益(報酬は国が決定している)は望めないが、
人件費の高騰は政策上進められており、
人の採用自体もままならない地域が多く存在するため、取り合いが始まっており、
経費の増加は避けられないご時世という状況です。
そのまま対策をうって経営をしていかなければ、赤字法人が増えるのは避けられないことだと思います。
今回記載させてもらった福祉医療機構については全国の情報を集約している情報のため、地域によっては異なる事情もあると思います。
業界の動向や平均値を調べること、近隣同業他社の情報を調べること、自社の情報を調べることは必須事項と考えらえれますので、
是非、確認をしていただければと思います。
社会福祉法人は、まだまだ分析や経営が足りていない法人が多いのではないかと感じております。
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